交通事故の休業損害はいくら請求できる?休業補償との違いとは
- 2019/4/22
- 2021/06/02
仕事をしている方や主婦が交通事故に遭ったら、これまで通り仕事や家事ができなくなってしまう場合もあります。そのような場合、加害者に対して休業についての賠償金の請求が可能です。この休業に対する賠償金を「休業損害」と言いますが、よく似た言葉に「休業補償」があります。休業損害と休業補償とは、何が違うのでしょうか?
以下では、交通事故の「休業損害」と「休業補償」の決定的な違いをご説明します。
Contents
「休業損害」補償額の計算方法は?
休業損害の計算式
- 交通事故の「休業損害」計算式
- 1日あたりの基礎収入×休業日数
1日あたりの基礎収入について
1日あたりの基礎収入について、被害者がサラリーマンやアルバイトなどの労働者の場合、事故前3か月分の給与を平均して計算します。自営業者の場合には、事故の前年度の所得を基準に計算します。
被害者が主婦や主夫の場合には、実際の収入を得ていないのでこうした資料がありません。そこで「全年齢の女性の平均賃金」を基準に算定して、1日1万円程度となります。このとき男性の主夫のケースでも、「女性の平均賃金」を使うので注意が必要です。男性の平均賃金を使うと女性より高額になり、主夫の休業損害が主婦より高額になって不合理だからです。そのため、男性でも女性でもどちらのケースでも1日1万円程度です。
休業日数について
休業日数は、実際に仕事を休んだ日数です。サラリーマンの場合には、勤務先に休業した日にちの明細を記載した「休業損害証明書」を作成してもらいます。自営業者や主婦などの場合には、入院日数は明らかに休業日数に含まれますが、通院した日や自宅療養日などについては、医師による診断書等によって立証する必要があります。
交通事故の休業損害は、休業1日目の分からの支払いが可能です。また基礎賃金の全額を支払ってもらえるので、8割にされる休業補償よりも金額が多額になります。
「休業損害」とは何なのか?
- 休業損害とは
- 仕事をしている人や主婦が交通事故に遭ったために仕事ができなくなって発生する損害です。仕事をしている人が交通事故でケガをすると、入院や通院をしなければなりませんし、ときには自宅療養も必要になります。そうなると仕事をできない期間が発生し、本来得られるはずの収入が得られなくなってしまいます。そのような休業による見えない損失が「休業損害」です。
たとえばサラリーマンが10日間入院した後に30日間通院のために会社を休んだ場合、合計で40日分の休業損害金を受け取れます。
事故に遭ったときに休業損害が発生するのは、基本的に労働で対価を得ている有職者です。会社員、自営業者、フリーランス、アルバイト、パート、派遣社員、契約者員などすべての有職者に休業損害が認められます。また家事労働にも経済的な価値があると考えられるので、主婦や主夫にも休業損害が認められます。
一方無職の人や無収入の人、子どもには休業損害が発生しません。株式などの配当所得、不動産収入や年金で生活している人も、仕事によってお金を稼いでいるわけではないので休業損害を請求できません。
休業損害を負担するのは、交通事故の加害者です。加害者が自賠責に入っていたら基本的には自賠責が負担しますが、自賠責の限度額を超える場合には超過部分を任意保険が支払います。加害者が保険に入っていない場合には、加害者本人が休業損害を負担します。
「休業補償」とは何なのか?
次に「休業補償」とはどういったものなのか、ご説明します。
休業補償は労災の給付金
休業補償は、「労災保険による給付金」を意味します。会社員などのように、どこかの事業所に勤める労働者は、全員「労災保険」に加入しています。そこで業務中や通勤退勤途中に交通事故に遭った場合、「労災保険」からさまざまな給付を受けることが可能です。その労災給付金の1つが「休業補償」になります。
休業補償を受け取れるのは、給料を受け取っている労働者だけです。自営業者の場合には、基本的に労災保険に入っていないので休業補償を受け取れませんし、主婦や主夫にも休業補償はありません。もちろん無職の人や無収入の人、不動産収入や配当所得で暮らしている人、年金のみで生活している人などにも休業補償は認められません。
※休業補償を受け取れるのは、休業4日目からです。1~3日目までの給付はありません。また休業補償によって受け取れるのは基礎賃金の8割の金額であり、発生した損害の全額ではありません。
休業損害と同じ意味で使われるケースもある
このように休業補償は労災の給付金であり、交通事故の休業損害は異なるものですが、一般には「休業補償」と「休業損害」は同じ意味で使われているケースもあります。つまり交通事故で仕事を休んだときに、加害者や自賠責から支払われる「休業損害」を「休業補償」と呼ぶのです。使い方を混同しているものの、この方がわかりやすいので区別なく使われています。
そこで「休業補償」と言われたときには、加害者から支払われる休業損害のことを言っているのか労災の休業補償のことを言っているのか、適切に見分けることが大切です。
「休業損害」「休業補償」の違いは?
加害者や自賠責から払われる「休業損害」と、労災から支給される「休業補償」では何が違うのか、以下で解説していきます。
支払元
休業損害の場合には、「自賠責保険」や「任意保険」「加害者本人」が支払います。実際には任意保険会社と示談が成立すれば、発生した休業補償をまとめて受け取ることが可能です。一方、休業補償の場合には「労災保険」が支払元です。労災保険の申請先は、地域の「労働基準監督署」なので、労基署に労災の申請をして認定されたら休業補償を受けることができます。
支払われる人
休業損害の場合には、会社員(契約社員、派遣社員などを含む)やアルバイトなどの給与所得者だけではなく、個人事業主やフリーランス、主婦や主夫も受け取れます。休業補償の場合、受け取れるのは会社員やアルバイト、契約社員や派遣社員などの労働者のみです。フリーランスや個人事業主などは基本的に受け取れません。
支払われる日数
休業損害の場合には、仕事を休んだすべての日数分が支払われます。一方、休業補償の場合は休業4日目からとなるため、受け取れる日数が少なくなります。
支払われる金額
休業損害の場合、支払われるのは発生した損害全額です。休業補償の場合には、8割程度となります。
休業損害と休業補償を重複して受け取れるのか?
休業損害と休業補償は「重複して受け取れる部分とそうでない部分」があります。休業補償とは、6割の基礎給付の部分と2割の特別支給金の部分に分かれるのがポイントです。6割の基礎給付の部分については重複支給が認められませんが、2割の特別支給金については休業損害と「別途」で受け取れることが認められています。
そこで会社員などが交通事故に遭った場合には、休業損害と休業補償の両方を請求することにより、合計で120%の休業に対する賠償金を受け取ることが可能です。労災の休業補償は、労働基準監督署に申請しないともらえません。事故が労災になる場合には、相手の保険会社への請求だけではなく労基署への申請もあわせて進めましょう。
「休業給付」とは何なのか?
交通事故の「休業」に関する給付として「休業給付」もあります。
休業給付とは、労災にもとづく休業補償の別名です。労災から支給される休業に関する給付金は、「休業補償給付」と言います。そこでこれを省略して「休業補償」または「休業給付」と言われます。
★休業損害は「自賠責保険や加害者から支払われる休業に対する損害賠償金」であり、「休業補償」「休業給付」は「労災から支給される給付金」という決定的な違いがあります。今後交通事故の示談交渉や労災保険金請求を行うときには、参考にしてみてください。