交通事故における民事調停の手順と4つのメリット
- 2019/4/22
- 2021/10/11
民事調停は、交通事故に遭った際の損害賠償において請求金額を決める方法の一つです。
民事調停は示談交渉がうまく進まなかった際に一つの選択肢となりますが、メリットとデメリットがあり、調停をしたからといって良い結果になるとは限りません。
今回は、民事調停の手順や流れについてご紹介していきます。
Contents
民事調停のメリット・デメリット
民事調停とは、裁判所で行われる民事に関する紛争の解決手段の一つです。裁判所で行われる解決手段として民事訴訟もありますが、二つには大きな違いがあります。
- 双方の話し合いと合意によって支払額が確定する
- 交通事故の人身事故のみ申立人の住所の管轄でも行うことが可能
順を追って解説します。
- 双方の話し合いと合意によって支払額が確定する
- 交通事故の人身事故のみ申立人の住所の管轄でも行うことが可能
訴訟では、裁判官が双方の言い分を聞いたうえで、どちらが正しいか、支払う金額はいくらが適切かを決めますが、民事調停は双方の話し合いと合意で決定します。
話し合いと合意が元になっているのは示談交渉と同様ですが、調停での話し合いには調停委員が仲介を行い、裁判官が関与します。
調停の申し込みを「申立」、申し立てをした人を「申立人」、話し合いの相手は「相手方」といいます。
【一般的な民事調停】 | 【交通事故の人身事故における民事調停】 |
---|---|
相手方住所の管轄する簡易裁判所 | 申立人の住所の管轄する簡易裁判所でも可能 |
原則的に民事調停は相手方の住所を管轄する簡易裁判所で行いますが、交通事故の人身事故のみ申立人の住所の管轄でも行う事が可能です。
民事調停の申し立てで解決が期待できるケースとして、相手方が裁判所に出向いて話し合う意思がある場合は歩み寄る事も出来るでしょう。
相手との溝が深い、双方が提示する損害賠償の金額に大きな差がある場合などは、調停をしても解決しないケースもあります。
このように民事調停は万能ではないため、以下のようなメリットとデメリットを比較して利用の有無を判断した方が良いでしょう。
【メリット】 | 【デメリット】 |
---|---|
個人でも交渉しやすい | 解決できず無駄に終わることがある |
結果が出るまでが早い | |
強制執行が可能に | |
手続きが簡単 |
【メリット】個人でも交渉しやすい
交通事故の損害賠償の金額は、基本的には示談交渉によって決められます。ポイントとしては以下の要点です。
- 示談交渉時に保険会社の提示条件を飲んでしまうケースは少なくない
- 調停であれば客観的な話し合いが出来る
重い後遺障害を負った場合、損害賠償の金額は億の単位になることもあり、示談交渉の場で簡単に保険会社がこちらの請求を飲んだり、満足な金額を提示したりするケースは少ないでしょう。
示談交渉では、示談交渉のプロであり、且つ自社の業績のために保険金額を抑えたい保険会社社員が対応します。そのため、保険の素人である被害者が保険会社の言いなりになって低い金額で交渉を終える事も少なくありません。
しかし民事調停では、裁判所の調停委員が客観的に間に入って話し合いがもたれるため、どちらか一方が不当な言い分に流されてしまうことを防ぎやすくなります。
【メリット】結果が出るまでが早い
【裁判の場合】 | 【民事調停の場合】 |
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2年以上かかる場合がある | 平均3ヶ月以内に終わる |
一般的に民事調停で解決するまでの期間は約3ヶ月といわれています。裁判の場合、年単位でかかることも少なくありません。早く解決したい場合には、民事調停は向いている方法といえるでしょう。
ただし、話し合いが成立しない、歩み寄りの姿勢がない場合には、解決せずに終わる場合もあります。
【メリット】強制執行が可能に
民事調停が成立した場合、その内容について相手方は無視することができなくなります。示談交渉などでは、あくまでも双方間の話し合いで決まったことであり、相手の財産を差し押さえるような強硬手段はできません。
ただし、相手が支払おうとしない場合に強制執行として財産を差し押さえるなどして取り立てることも可能です。
強制執行のためには、調停調書正本と執行文書という書類が必要となります。
【メリット】手続きが簡単
民事訴訟などと比較すると、民事調停の申立方法が簡単に済みます。提出に必要な書類も少なく、法律に疎い方でも行うことは可能です。また費用も低めに設定されており、初期費用をかけずに損害賠償請求を進めやすくなります。
費用としては、以下のように支払いを求めたい金額によって決められる手数料、書類の郵送費用が最低限必要です。
金額10万円の場合 | 金額100万円の場合 |
---|---|
訴訟で1,000円、調停で500円 | 訴訟で10,000円、調停で5,000円 |
訴訟を起こす場合の半分の金額で行えます。
【デメリット】解決できず無駄に終わることがある
デメリットとしては以下の点がポイントです。
- 双方の合意が無い場合解決できない
民事調停は双方の合意のみが解決の道となり、どちらかが納得できないと解決できません。また裁判のように強制的に結論を出すことはできず、未解決のまま終わることもあります。そのため実際に調停をしたものの、最終的に何も進展が見られず、時間とお金の無駄になるケースもあるのがポイントです。
示談で歩み寄れなかったのであれば、民事調停でも同様の結果になる可能性はあります。示談が成立しなかった原因を慎重に見極めて、調停をするかどうか決めた方が良いでしょう。
民事調停をした方が良いケース
民事調停では裁判と異なり強制的な解決はなされないので、双方の合意がなければ手続きが無駄になってしまうことはわかりました。では、どのような場合に民事調停をした方が良いのか、民事調停のメリットを活かせる具体的なケースを考えていきましょう。
話し合いはできているが条件で折り合えていないケース
相手と全く話し合いができないような場合には、民事調停でも合意して解決することは難しいでしょう。しかし、相手ときちんと話し合いができているが、条件でなかなか折り合いがつかないという場合には、民事調停を利用することで解決できる可能性が高くなります。
民事調停の申立を受けると、裁判所は調停委員会を立ち上げます。調停委員会は、ほとんどの場合、裁判官1名と調停委員2名という構成です。裁判所のウェブサイトによると、調停委員は、調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士、不動産鑑定士、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれています。
調停委員は事件の内容に応じて相応しい人物が選ばれるため、交通事故の場合には弁護士や損害保険会社出身者が選ばれることが多いです。民事調停では、交通事故について豊富な知識経験や専門的な知識を持つ調停委員が、中立的な立場から客観的な意見を出してくれます。
第三者を間に入れない示談交渉では自分の主張が正しいという思い込みから相手に歩み寄れないこともあるでしょう。特に、交通事故の加害者やその保険会社が相手では、どうしても不信感を抱いてしまいがちです。しかし、調停委員の中立的で客観的な意見を聞きながら話し合うならば、お互いに歩み寄って、条件の折り合いをつけられる可能性が高くなります。特に、お互いが主張している条件に大きな開きはないものの話し合いが膠着している場合は、民事調停を利用すれば解決の可能性が高くなるケースだと言えるでしょう。
本当にその条件で合意して良いのか不安なケース
話し合いは順調に進んでいて、相手が出してきた条件で合意しても良いと考えている場合でも、本当にその条件で合意してよいのか不安に思うこともあるでしょう。特に、自分が交通事故の被害者で、交渉のプロである保険会社社員と交渉している場合には、相手が出してきた条件の良し悪しを判断することは困難です。そんなときには、民事調停を利用することで本当に納得して合意することができる場合があります。
民事調停では専門知識を備えた調停委員が間に入った状態で話し合いをすることができます。調停委員は中立的な立場から客観的に意見を出してくれるので、どちらの味方というわけではありません。そのため、せっかく順調に進んでいた話し合いが、調停委員が間に入ったために決裂してしまうということは考えにくいです。もし中立な第三者が入ったために交渉が決裂してしまったとすれば、それは相手にとって一方的に有利な交渉だったと考えることもできます。順調に話し合いができていても、誰かの意見を聞きながらでないと結論を出すことは不安という場合も、民事調停を利用した方が良いケースだと言えるでしょう。
相手が本当に支払ってくれるのか不安があるケース
民事調停を利用するメリットは、調停委員が間に入ってくれるだけではありません。相手が合意した内容を実行しなかった場合に、財産を差し押さえるなどの強制執行ができることも挙げられます。
自分が交通事故の被害者になってしまった場合、相手が必ず保険会社を利用するとは限りません。加害者が保険に加入していない場合もあるでしょう。このような場合、加害者が必ずお金を支払うと約束してくれても本当に支払ってくれるのか不安です。そんなときには、民事調停を利用して、民事調停の場で合意をすることで、加害者に強制的に合意を守らせることが可能になります。相手と良い条件で合意できそうだが、支払いに不安がある場合も、民事調停を利用した方が良いケースだと言えます。
民事調停の流れと進め方
民事調停は、簡易裁判所または地方裁判所への申し立てで始めることができます。基本的には、相手方の住所を管轄する簡易裁判所、または当事者が合意した地方裁判所か簡易裁判所での申し立てが可能です。
交通事故の人身事故に限っては、被害者の住所地の管轄裁判所でも出来る事になっています。
申し立てに必要なのは以下の8つです。
- 交通調停申立書
- 交通事故証明書
- 診断書
- 必要な場合のみ商業登記簿謄本(抄本)
- 登記事項証明書
- 証拠書類写し
- 印鑑
※上記以外の書類を提出するケースもあります。詳しくは弁護士事務所までご相談下さい。
手数料は収入印紙を購入して申立書に貼ることで支払います。
金額は以下のようになります。
訴額 | 手数料額 |
---|---|
50万円 | 2,500円 |
100万円 | 5,000円 |
300万円 | 10,000円 |
500万円 | 15,000円 |
裁判所の手数料早見表には、1億円までの手数料とそれ以上は別途問い合わせの旨が書かれています。しかし、実際に高額の請求が民事調停で解決するケースは少なくなります。多くの場合、裁判まで必要となるでしょう。
調停を欠席した場合
民事調停では、裁判所に出向いて自分の主張を伝え、話し合いを進めなければいけません。やむを得ない事情がある場合には、裁判所に連絡をして日程を変えてもらうことも可能です。ただし、無断欠席をした場合には5万円以下の過料となることが定められています。
また、交通事故の加害者やその保険会社が、被害者に対して調停を申し立てることもあります。その際には、無断で欠席をしないことが大切です。
治療の最中で症状固定前などの場合には、延期してもらうという選択肢もあります。
調停を有利な条件で乗り切るには
交通事故で示談交渉がうまく行かない場合、民事調停も一つの選択肢ではありますが、一度弁護士に相談してみるのも一つの手段です。
弁護士へ相談するメリットは以下2つです。
- 有利な条件で導くことが出来る
- 話し合いが長期化することを防ぐ
交通事故の被害者になった場合、加害者側の任意保険から慰謝料や逸失利益などの損害賠償を受けることになります。しかし、この損害賠償の金額が双方の間で決まらないケースも多いものです。特に、損害賠償の金額が大きくなる場合にはその傾向が顕著となります。
調停の手続きは法律の素人でも可能な範囲ですが、より有利に進めるためには弁護士の力を借りると安心です。調停員への働きかけ方も相談でき、より合理的に調停を乗り切る方法がわかります。交通事故における民事調停の上手な進め方について詳しく知りたい場合、弁護士へ相談してみましょう。