【物損事故】修理費だけでは納得できない!慰謝料請求できる方法は?
- 2019/2/25
- 2022/01/11
交通事故に遭ったとき、それが物損事故であるか人身事故であるかで慰謝料の扱いや損害賠償の範囲などが異なります。
基本的に、物損事故では慰謝料は発生しませんが、場合によっては物損事故でも慰謝料請求が可能なケースがあるのです。
今回は、物損事故における慰謝料や損害賠償について説明します
Contents
物損事故と人身事故の違い
まず、物損事故と人身事故の違いについて大まかに見ていきましょう。
物損事故とはどういうものか
- 物損事故
- 車や建物、道路設備などの物に損害が加わった交通事故のことです。つまり、ケガや死亡など、人に損害を与えていない事故のことを物損事故といいます。
法律上は民事事件となり、加害者は破損させた物に対して修理費などを支払うことになります。このとき、「物件事故報告書」という書類が作成されますが、内容は概要説明程度のものです。
※事故が悪質である場合や信号無視などが争点である場合は、警察による実況見分が行われることもあります。
物損事故では、後述のように損害賠償の範囲が限られてきます。そして損害賠償とは別となる慰謝料は、原則加害者に請求することができないとされています。
※場合によっては慰謝料が発生することもあります。
人身事故とはどういうものか
- 人身事故
- 交通事故においてケガを負ったり死亡したりといった、人に対する損害が発生したものを指します。人身事故では、被害者と加害者が死傷した場合には民事事件として損害賠償が発生するほか、刑事事件としても取り扱われます。
また、事故内容の詳細な「実況見分調書」が作成され、加害者側に刑罰が科せられることがあるのです。
人身事故では損害賠償の範囲が広く、さまざまな面から賠償金を請求することが可能です。ただし、過失割合によって損害賠償額が多少減額されるなどの点には、注意したいところです。
※物損事故・人身事故のいずれの場合も、警察へ連絡する義務が課されています。たとえ損害が軽い物損事故だったとしても、安易に被害者・加害者双方だけで解決させるのは避けてください。その他、加害者は免許停止や反則金の支払いなど、行政からの処分も受けます。
加害者側のメリット(加害者が物損事故にしたい理由)とは?
交通事故を起こしたとき、加害者は物損事故にしたがります。
それはなぜでしょうか?下記で理由をご説明します。
物損事故扱いにすると加害者にはメリットがあります。
加害者は免許の点数が加算されずに済む
物損事故の場合、加害者は免許の点数が加算されません。
人身事故の場合は免許の点数が加算されます。
加害者は刑事罰を受けずに済む
物損事故の場合、加害者は刑事罰を受けません。
人身事故の場合、自動車運転危険致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。
加害者が払う賠償金が安くなる
物損事故の場合、慰謝料が発生せず逸失利益も発生しません。
車の修理代だけですんでしまうことが多いです。
以上で分かるように物損事故扱いにした場合、
加害者は行政処分にも刑事処分にも民事処分にも問われずにすみます。
物損事故を人身事故として処理する方法
物損事故では、損害賠償の金額はそう高額にはならず、慰謝料も上記のような特別なケースでなければ請求は困難です。ただし、事故当初は物損事故として処理されても、後日人身事故への切り替えが可能な場合があります。
人身事故としての処理に切り替えることで、損害賠償の範囲が広がり、十分な賠償金額を得られる可能性も高くなります。
では、物損事故から人身事故へ切り替える方法はどうすればいいでしょうか。
物損事故から人身事故として処理する方法
病院へ行く
事故後一週間以内、遅くとも10日以内に行くことが重要です。
これは、刑事上の手続き云々だけでなく民事上も事故との因果関係を争われない為の重要な事項であり、事故後からかなり日数が経過している場合、因果関係を疑われ争うケースがあります。
受傷日や初診日、治療機関などの記載がある診断書を病院にて作成してもらってください。
警察に切替届け出をする
もし、物損事故として届け出を出してしまっても、事故後10日くらいまでの間に医師の診断書をもって届け出をしにいくと人身事故扱いに切り替えてもらえることもあります。
※早期に行動する事が重要です
加害者の保険会社に人身事故証明書入手不能理由書を提出する
警察で人身事故への切り替えが認めてもらえなかった場合、民事的部分だけでも人身事故にしてもらう必要があります。
そうしなければ、治療費や慰謝料など必要な賠償金がもらえないからです。
民事的に物損事故から物損事故へ切り替えをするには加害者の保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を提出する必要があります。
この結果、保険会社が人身事故として認めてくれたら民事的には人身事故として扱われるため、治療費や慰謝料などの請求が可能となります。
裁判を起こす
警察で人身事故扱いが認めてもらえず、加害者の保険会社も人身事故扱いに切り替えてくれない場合は裁判を起こして裁判所で人身事故であることを認めてもらう必要があります。
その為には、交通事故と怪我との因果関係を適切に証明する必要があるため、交通事故問題に強い弁護士に依頼するのが得策です。
次に、人身事故を物損事故として処理したときの、被害者のデメリットをあげていきましょう。
人身事故を物損事故として処理した場合のデメリット
自賠責保険からは賠償金が支払われない
交通事故で発生した損害については、自賠責保険から賠償金を受け取ることが可能です。しかし自賠責保険は、物損事故における賠償金は支払われないことになっているのです。
そのため、加害者が任意保険に加入していない場合は、全く賠償金を受け取れないといった事態も考えられます。
事故の詳細を証明できる証拠が残らない
前述のように、
そのため、物損事故は人身事故に比べて、事故の状況や過失割合などを証明することが難しいのです。
上記のように物損事故で処理した場合には被害者にとってデメリットが多くなります。ただし、たとえば車同士の接触や、物の破損時に被害者がその場にいたケースでは、被害者がケガを負う可能性もあるでしょう。
そして事故当時には症状がなく物損事故として処理しても、数日経ってから痛みなどの症状が現れることがあります。
このような場合には、物損事故を人身事故に切り替えることができるのです。
物損事故を人身事故に切り替えるには?
では、物損事故から人身事故への切り替え方法について説明します。交通事故で負ったケガによる症状が出たら速やかに医療機関を受診し、診断書を発行してもらいます。それを警察に提出すれば、切り替えが可能です。
ただしこのとき、交通事故から受診までの期間が空きすぎていないことが条件となります。交通事故発生からおよそ1週間~10日以内に届けるのが一般的です。これは、交通事故から期間が空いていると、そのケガと交通事故との因果関係が証明できないためです。
人身事故に切り替えることができれば、被害者は以下のような損害賠償を請求できます。
- 物損にかかる修理費
- 慰謝料
- 治療費
- 入院した場合の諸費用
- 通院にかかる交通費
(こちらは物損事故同様請求できます)
(例外的に物損事故でも請求できるケースがあります)
4.物損事故時に認められる損害賠償の範囲とは
物損事故では、人身事故に比べて請求できる損害賠償の範囲が限られてきます。
物損事故ではどの範囲で損害賠償が発生するのでしょうか。
車両に関するもの
車両に損害が生じた場合、以下のような費用の賠償が受けられます。
修理費
修理費については、交通事故による損害として適切と認められる範囲で請求が可能です。たとえば塗装の一部がはがれた場合に、その部分の修繕費以上の賠償金は受け取れません。ちなみに、建物や道路設備などに損害が加わった場合にも、相当の修理費が賠償されます。
車両の全損によるもの
車の損害が激しく廃車せざるを得ない場合(物理的全損)、また修理費が車の時価額に買い替え費用を加えた額を大きく上回る場合(経済的全損)には、車の時価額を賠償金として受け取ることができます。
評価損
車が全損を負わなかったとしても、修理後も機能や構造が全回復しなかったときには時価額が下がるため、評価損として賠償金を請求できることがあります。
代車使用料
車の修理や買い替えによって代車を利用した場合は、その使用料を受け取ることが可能です。ただし、修理や買い替えの期間に代車の必要性があると認められた場合のみとなります。
休車損害
会社の営業用車両が損害を受け、修理もしくは買い替えの期間に代替車を用意できず営業に支障が発生した場合、休車損害の請求が認められることがあります。また、店舗などに損害が与えられて営業が難しくなった場合には、休業損害として請求が認められます。ただしこれらの場合、休車・休業したことにより、どれくらいの損害を被ったかを証明することが必要です。
ペットの損害
上記のとおり、ペットは交通事故において物として扱われます。しかし実際には、ペットは物として片づけられない大切な存在です。そのため、ペットの治療費や死亡した場合の葬儀費用、慰謝料などが請求できるケースが多くなっています。
全損か修理可能かによる違い
全損とは?
全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。
- 物理的全損
- 経済的全損
事故に遭った車が修理不可能な状態まで損害を受けてしまった場合のことです。
修理費用が車の時価額を上回った場合のことです。この場合、車の時価額までしか保険金は払われません。
全損の場合
車両の時価額、台車費用、買替諸費用などが請求できます。
修理可能な場合
修理費、台車費用などが請求できます。
物損事故で保険金を受け取れない3つのケース
物損事故でも必ず保険金が受けとれるわけではありません。
下記で受け取れないケースを説明していきます。
加害者が任意保険に加入していない
加害者が任意保険に加入していない場合、物損事故の被害について補償を受けることができず、加害者本人から回収するしか方法がありません。
加害者が対人賠償の任意保険にしか加入していない
対人賠償には加入していても、対物賠償に加入していない場合物損事故の被害について補償を受けることができず、加害者本人から回収するしか方法がありません。
加害者が非を認めず保険会社に報告をしていない
加害者が自分の過失について非を認めず無過失を主張した場合、保険会社は「賠償責任義務がある場合のみ」に示談交渉を行うため、加害者と直接交渉しなければなりません。
この場合は、なかなか解決が難しく長引く可能性があるため、弁護士に間に入ってもらうのが得策です。
物損事故でも慰謝料請求は可能?
交通事故の事案において物損事故で慰謝料を請求することは原則できません。
慰謝料は、被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われるものであるためです。
つまり、人や物への損害に支払われる損害賠償とは性質の異なるものであるといえます。さらに一般的には、物の損害は人体の損害よりも精神的苦痛が軽く、慰謝料が発生する程度ではないという見方がなされるのです。
ただし、損害を受けた物が被害者にとって特別な価値を持っている、損害を受けたことによって被害者が精神的に大きな苦痛を負ったなどのケースでは、例外として慰謝料請求が認められることもあります。
過去に、物損事故で慰謝料の請求が認められたケースには、下記のようなものがあります。
[各ケースの概要]
墓地内で、車によって墓石が破損されたケース
[実際の判例]
平成12年10月12日/大阪地方裁判所/判決/平成11年(ワ)第12268号、平成12年(ワ)第1207号 保険金代位請求事件(第1事件)、損害賠償請求事件(第2事件):自保ジャーナル1406号4頁
慰謝料額:10万円
・本来は物損が壊されたことによる慰謝料請求は認められませんが、回復されないほどの苦痛が生じた場合は慰謝料請求を認める必要があります。
・この事案において言えば、墓石が倒壊した際に埋設された骨壺が露出しました。墓地や墓石は敬愛する故人を最も強く想う場所であり、その特殊性を考慮すると精神的苦痛に対する慰謝料も損害賠償の対象になります。
車が家屋の玄関に突っ込んで破損したケース
[実際の判決]
平成15年7月30日/大阪地方裁判所/判決/平成13年(ワ)13927号:交通事故民事裁判例集36巻4号1008頁
慰謝料額:20万円
・通常通りの生活を一定期間過ごすことが出来ませんでした。そのため、精神的苦痛による慰謝料が発生する事案となります。
車が家屋に衝突し、引っ越しを余儀なくされたケース
[実際の判決]
平成13年6月22日/神戸地方裁判所/判決/平成12年(ワ)268号:交通事故民事裁判例集34巻3号772頁
慰謝料額:30万円
・老齢の方が住み慣れた家屋から離れ、半年以上アパート生活を強いられたことは生活上の不便・心労や不自由さは相当なものであると考えられます。
・借財して修復工事を行う、事後処理に紛争するなどの精神的苦痛が発生、慰謝料が認められました。
車がペットを轢いて死亡させたケース
東京高裁平成16年2月26日判決
慰謝料額:5万円
車がペットを轢いて後遺症が残ったケース
名古屋高等裁判所 平成20年9月30日判決 損害賠償請求控訴事件
慰謝料額:18万円
・愛玩動物は家族として同様の存在ですが、不法行為によって傷害を負った事は飼い主の精神的苦痛・感情及び一般人と同程度の精神的損害があると認めることが出来ます。
・財産的損害の賠償によっては慰謝されず、精神的苦痛が相当であるという観点から鑑みると財産的損害に対する損害賠償+慰謝料請求することが出来ると認められます。
庭先にあった陶芸作品を車に破損されたケース
平成15年7月28日/東京地方裁判所/判決/平成12年(ワ)第27114号:交通事故民事裁判例集36巻4号969頁
慰謝料額:100万円
・作品価値自体が高く評価されており、1年という制作年月をかけて作り上げた思い入れのある作品にも関わらず、修復不可能なほどの破損が起きたことによる精神的苦痛は計り知れません。
・壊れた作品は代替できない”構成部分”のものであること、被害者が壊れた作品を制作した方であることなど主観的精神的価値を認めることが出来るため、精神的苦痛による損害賠償は認められます。
・また、作品の財産的価値が算出できない為、金額として100万円を認める事とします。
5.損害賠償の範囲交渉や人身事故切り替えは法律が必ず絡む
以上、物損事故における損害賠償と、人身事故への切り替えなどについてお話ししました。交通事故はいずれの場合もケースバイケースであり、物損事故に関しても請求できる賠償金額を決めるには、法律で定められた範囲や計算方法を考慮する必要があります。
その判断は素人には難しいため、
物損事故の被害者になった場合には、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。