【脳の後遺障害】交通事故における高次脳機能障害と慰謝料請求額
- 2019/4/19
- 2019/09/26
交通事故は、予期せぬアクシデントです。家を出たときは、昨日と変わらない一日を過ごせると思っていたのに、突然降り掛かってきます。交通事故は最悪の場合は死亡、死に至らなくても大きな障害を負ってしまうケースもあります。
損傷する部分は手や足だけではなく、内臓や脳を損傷するケースは少なくありません。実際、後遺障害のひとつである高次脳機能障害になると、他人からは障害があるようには見えない場合が多いです。
高次脳機能障害の場合、認められるのにハードルは高いですが、必要な検査や手続き、症状のテストを受けて、後遺障害認定されることで慰謝料を請求できます。
高次脳機能障害について詳しく知りたい方や、慰謝料請求額が分からず困っている方は、参考にしてください。また、被害者やその家族だけで抱え込まず、弁護士などのプロから助言を受けることも大切です。
Contents
脳外傷による高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、損傷や疾患が原因となり、高次脳機能に障害が起きた状態を指します。
- 感情のコントロール
- 目的設定や遂行
- 作業の反復継続
上記は、障害が該当する状態の例です。高次機能とは、記憶や知覚、そして思考や学習機能と、精神や感情の機能を司っている脳の働きのことです。
高次脳機能障害の原因の8割は脳卒中ですが、1割は交通事故などの脳外傷によるものです。その他にも、細菌やウイルスの感染や、薬物中毒、アルコール依存などが原因となる場合もあります。どのような原因であっても脳が損傷してしまうと、脳の機能が損なわれてしまいます。
交通事故によって脳外傷を受けると、脳の損傷部位によって、記憶障害、注意障害、失語、失行などの症状が出ます。1つの症状だけが出るということもありますし、複数の症状が同時に出ることもあります。高次脳機能障害の一番の問題は、外見からは障害の存在がわかりにくいということです。外見だけでなく、脳の損傷が軽度の場合には、MRI検査を受けても損傷が確認できないこともあります。そのため、交通事故によって高次脳機能障害が起こってしまったことに気づかないというケースがあります。身体の怪我は治ったから職場復帰したが、今までと性格が変わってしまった、今までできていた仕事ができなくなってしまった、ということがありうるのです。
かつて、高次脳機能障害は、そのわかりにくさから、自動車賠償責任保険において後遺障害として認定されていませんでした。しかし、高次脳機能障害が広く認識されるようになり、2000年に自動車保険料率算定会(現在の損害保険料算出機構)が高次脳機能障害認定システムの検討を開始しました。そして、2001年から高次脳機能障害認定システムの実施運営が開始されています。作業療法士などによる訓練が診療報酬の対象となったのが2004年ですから、このシステムは他の公的制度に先駆けて高次脳機能障害を取り上げたものと言えます。交通事故における高次脳機能障害は、それだけ深刻な問題であるとも言えるでしょう。
高次脳機能障害による症状
高次脳機能障害になると、さまざまな症状を引き起こします。他人が見ても障害があると思われないこともありますが、高次脳機能障害の症状は深刻です。ここでは代表的な3つの症状を解説します。
人格変化
交通事故に遭って以降、これまでとは異なり、自発的に行動しなくなったり、逆に衝動的に行動するようになったりします。優しかった人が怒りっぽくなるなど、性格的な変化が見られる可能性があります。
認知障害
高次脳機能障害になると、認知障害になることもあります。これからの行動を計画して実行に移せない遂行機能障害をはじめ、すぐに気が散ってしまう集中力障害や新しいことを覚えられない記憶障害などが見られます。以下が特有の症状事例です。
- 視覚失認(知り合いの顔が分からない等見ただけでは判断が付かない)
- 反側空間無視(左右どちらかの食事を残すケースや片側によく当たるなど認識できていない)
- 地誌障害(慣れ親しんだ町の道を迷ったり、新しい道を覚えられない)
- 注意障害(気が散りやすく作業に対し集中することが出来ない)
- 遂行機能障害(自分自身で計画を立てることが出来ず、物事を判断することが出来ない、指示なしでは動けない)
行動障害
高次脳機能障害になると、人格や認知だけでなく行動にも影響を与えてしまいます。行動障害になると、一般的に常識とされている社会のルールやマナーを守れなくなるのです。さらに周りの状況に合わせて行動ができなかったり、自分の行動をコントロールできなくなったりします。
自分の行動を制御できなくなり、非常識と思われる行動をとってしまうのです。以下が特有の症状事例です。
- 運動失行(自転車に乗ることが出来ない。ボタンやチャックを開け閉めすることが出来ない)
- 着衣失行(片腕だけ袖を通すケースやズボンをはくことが出来ない)
- 観念失行(いつも使用している物に対し、使い方が分からなくなる)
- 観念運動失行(連動した行動が出来ない。まな板と包丁がある場合、まな板をどうしようすればいいか分からない等)
高次脳機能障害になると自覚症状はあるのか? |
一般的に高次脳機能障害と診断された人には、自覚症状はないと考えられます。その点において、高次脳機能障害の重度の見極めは難しいといえるでしょう。外見に障害が残っていないだけでなく、本人も自覚がないため見過ごされやすくなります。周囲の人も気づきにくいため、高次脳機能障害を抱えた人は周りから支援されにくいという可能性も考えられます。 |
高次脳機能障害と後遺障害等級
高次脳機能障害を疑うべきポイント
- 医師から見た障害程度
-
●頭部外傷後の意識障害についての所見
●神経系統の障害に関する医学的意見
概要:専門の医師に記載してもらう必要があります。弁護士と医師が記載内容について協議するケースもあるため、作成時は必ず弁護士に相談することを推奨します。
- 周囲から見たときに当てはまる症状の確認
-
●日常生活状況報告
●学校生活の状況報告
概要:事故前後からどう変化があったのか含め細かく書き出さなければなりません。この場合、弁護士が本人またはご家族などから聞き取り調査を行います。
また、上記とは別に知識面のテストWAIS-Rや記憶テストWMS-Rなどが必要となります。脳以外にも後遺障害の有無を確認しなければならず、後遺障害が認められる場合併合として等級が1級上がる場合があります。
高次脳機能障害はわかりにくいものであるため、自覚症状がない場合でも、画像検査を行なうことが大切です。MRIは脳外科で受けられる場合が多いですが、高次脳機能障害科が設置されている病院もあります。交通事故に遭ってしまった場合、高次脳機能障害のことも疑って、脳外科でMRIを受けておきましょう。MRI検査の費用は1万6千円程度の場合が多いです。
予想される後遺障害等級と基準別慰謝料額
高次脳機能障害は、障害や症状の状況に応じて、後遺障害等級が認められています。等級により慰謝料請求額も変わってくるため、とても重要な基準です。下記の基準と、症状を比較してみましょう。
後遺障害等級概要 | 後遺障害等級 | 自賠責慰謝料 | 弁護士慰謝料 |
---|---|---|---|
生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの | 1級 | 1,100万円 | 2,800万円 |
生命維持に必要な身辺動作に随時の介護を要するもの | 2級 | 958万円 | 2,370万円 |
日常生活で介護は不要だが、仕事ができない程度のもの | 3級 | 829万円 | 1,900万円 |
特に簡単な仕事しかできないもの | 5級 | 599万円 | 1,400万円 |
簡単な仕事しかできないもの | 7級 | 409万円 | 1,000万円 |
就くことができる仕事に相当の制限があるもの | 9級 | 245万円 | 690万円 |
自賠責基準とは
車やバイクを乗る人が必ず加入しなければいけない保険です。被害者に対して最低限度の賠償額が支払われます。
弁護士基準とは
過去の裁判の蓄積から導き出した損害賠償の計算式です。弁護士に慰謝料請求を依頼する場合、この基準を用いますが、示談交渉の際もこの基準を用います。
高次脳機能障害による後遺障害慰謝料の具体例
東京地方裁判所八王子支部による平成17年11月16日判決を紹介します。この判決では、交通事故の被害者には次のような症状が残ってしまいました。
・電話の内容を覚えられない、家族との会話を覚えていない、薬を飲み忘れる
・家の中でぼーっとしているだけでなにもせず、指示されないと洗面、入力、歯磨きをしないなど自発性が低下している
・同じ靴下を組み合わせられない整理整頓ができない
・悪口を言われたと思いこむなど、妄想がみられる
・怒りっぽくなり、近親者との間でもトラブルになる
・尿を漏らすことがある
これらの症状から、後遺障害等級第2級3号に該当すると認定され、2370万円の後遺障害慰謝料が認められました。また、この裁判例では、家族にも慰謝料が認められています。
慰謝料請求をするために
等級認定を受けるために、次のことに注意しましょう。
事故前と事故後に具体的な変化をメモする |
事故が起こってから、日常生活に具体的な変化はあったでしょうか。先ほど紹介したような人格変化をはじめ、認知・行動障害があると、日々の生活で変化があります。事故後から診察している医師では、事故前との比較はできません。だからこそ、家族や友人の評価が重要になります。 |
事故に遭った人の様子がおかしければ、日付や行動をメモしてください。このメモが、日常生活に支障をきたしている証拠になることもあるのです。
また、高次脳機能障害が適切に後遺障害として認定されるためには、CTやMRIなどの脳の損傷を示す画像検査資料が必要です。後遺障害認定手続きの際には、事故発生の直後から後遺障害の症状が固定するまでの画像検査資料を用意することになります。
事故の前と後とで、被害者の日常生活状況、就労就学状況、社会生活などが具体的にどのように変化しているのかも重要です。そのため、後遺障害認定においては診察した医師や家族などが報告書を作ることを求められる場合もあります。
脳の損傷が軽度の場合には、画像検査資料の用意ができない場合もあります。それでも、救急搬送時の記録などから、受傷当時の意識障害の有無や程度、症状経過等が把握できれば、後遺障害として認定されることが可能です。
高次脳機能障害はわかりにくいものですし、脳に外傷が認められたとしても、それがどのような症状につながっているのかは別の問題です。そのため、細かなメモが重要になるのです。
高次脳機能障害についての示談交渉
高次脳機能障害になってしまった場合、 示談交渉もひとつの選択肢です。しかし、高次脳機能障害の場合は、慰謝料の増額が望めます。症状によっては、介護が必要になるのが高次脳機能障害です。介護が必要となれば、その分金銭的な負担も大きくなります。だからこそ、長期にわたって必要になる費用を獲得しなければなりません。これらのことを踏まえると、示談交渉はあまりおすすめできません。
では、保険会社からの支払いに期待するべきなのでしょうか?保険会社は、できるだけ支払いを抑えたいものであるため、後遺障害として認定を受けたとしても、相場の保険金を払ってくれないこともあります。だからこそ、慰謝料の請求方法を考える必要があるでしょう。
※後遺障害の等級認定を受け、弁護士に相談すれば、高額の慰謝料を請求できる可能性が高まります。知識がなければ、せっかく慰謝料を請求できるところを、相手側の言われるままに示談で済ませてしまうかもしれません。交通事故に遭い、高次脳機能障害になってしまったら、まずは弁護士に相談しましょう。あなたの力になってくれるはずです。