歩行者と自動車の交通事故の過失割合その5
- 2020/3/4
- 2021/07/21
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信号機設置有りでの横断歩道前での事故
信号機の設置されている横断歩道手前での事故では、歩行者と自動車、それぞれの対面信号が何色だったかによって、双方の過失割合に差が出てきます。ここでは、横断歩道の手前など、横断歩道外での交通事故について過失割合がどうなるのかを解説します。
衝突時に自動車の対面信号が赤だったケース
横断歩道の手前で、自動車が赤信号にもかかわらず歩行者と接触した場合について、基本となる過失割合の算定基準は次の通りになります。
- 歩行者の信号が青:歩行者10:自動車90
- 歩行者の信号が黄:歩行者20:自動車80
- 歩行者の信号が赤:歩行者30:自動車70
このケースの事故で多い自動車の右左折時に、自動車の対面信号が「右左折の青矢印」であった場合も、直進車にとっての赤信号扱いとなります。この基本となる算定基準を元に、細かなシチュエーションごとの修正要素を加味して、過失割合を算定します。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の事故は、5%程度の加算
- 幹線道路などでの事故の場合は、10%程度の加算
- 歩行者が横断直前や佇立、後退は、10%程度の加算
- 住宅街や商店街などでの事故の場合は、5%程度の減算
- 歩行者が児童や高齢者であれば、5%程度の減算
- 歩行者が集団横断を行っていた場合は、10%程度の減算
- 幼児、身体障害者だった場合は、10% 程度の減算
- 自動車側に著しい過失があれば10%程度の減算
- (本基準の事故では、自動車が減速していない場合、著しい過失ありとしてよい)
- 自動車側に重過失がある場合は20%程度の減算
- 歩車道の区分のない道路での事故の場合は5%程度の減算
歩行者側と自動車側のどちらの過失が大きいかによって修正要素が大きく変化する事例となっています。そのため、事故発生時の状況を正確に報告したうえで、厳密に算定していくことになるでしょう。
赤信号で歩行者が横断中に、自動車が黄色信号で衝突したケース
横断歩道の手前を赤信号で横断していた歩行者が、直近の対面信号が黄色で進行してきた自動車と衝突したケースについて想定しています。この場合、基本に歩行者の過失割合は50%です。
このケースでは、両者に同等の過失割合が発生するという判断です。ただし、前提条件があります。それは自動車側の対面信号がすでに黄色であることを認めていて減速していた、ということです。
もし黄色信号が表示された時点で、自動車が所定の停止位置に近接していたため減速するタイミングがほぼなかった、という場合は、歩行者70に対して自動車30という過失割合が適用されるケースもあります。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間や幹線道路での事故の場合は、5%程度の加算
- 住宅街、商店街での事故の場合は、10%程度の減算
- 歩行車が接触の直前直後に立ち止まったり後退したりした場合は、5%程度の加算
- 歩行者が集団横断をしていた場合は、10%の減算
- 歩行者が児童や高齢者であったケースでは、10%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者であった場合は、20%程度の減算
- 自動車側に著しい過失があったのならば、10%程度の減算
- 自動車側に重過失があった場合は、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない道路での事故であれば、10%程度の減算
歩行者側が赤信号で横断してしまった理由にやむを得ない事情などがあるかどうかが、過失修正を判断するうえでのポイントとなります。
赤信号で歩行者が横断中・自動車が青信号で衝突したケース
横断歩道の直前を赤信号で横断していた歩行者が、青信号で進入してきた自動車と接触してした事故を想定しています。この場合、基本となる歩行者の過失割合は70%です。
当然、この事例では歩行者側の過失が大きいとみなされます。歩行者は「赤信号では道路を横断してはならない」と法律上決まっているためです(令2条1項、4項)。したがって、歩行者の過失相殺率は70%と高めに設定されています。原則として加算修正はしません。
ただし、次のような事情がある場合、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 住宅街や商店街での事故では、10%程度の減算
- 歩行者が集団横断をしていた場合は、10%程度の減算
- 歩行者が児童や高齢者であった場合は、10%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者であった場合は、20%程度の減算
- 自動車側に著しい過失があった場合は、10%程度の減算
- 自動車側に重過失があった場合は、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない道路での事故では、10%程度の減算
横断歩道手前や通過後以外での横断歩道での事故
横断歩道の手前や通過後の事故ではなく、そもそも横断歩道がない場所や、横断歩道付近などの場所で起きる事故のケースです。このケースでは、それぞれの事故の状況別に過失割合がかなり異なるため、それぞれ代表的な事例をあげながら過失割合がどうなるのかを説明していきます。
横断歩道がない交差点やその付近での事故
横断歩道がない交差点やその付近で、自動車と歩行者が衝突した場合を想定しています。基本的となる歩行者の過失割合は、30%です。
もともと歩行者の安全確保が難しいシチュエーションであるため、自動車側の過失割合を重く見たかたちです。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の事故で5%程度の加算
- 幹線道路での事故では10%程度の加算
- 道路に※横断禁止の規制があったケースは、10%程度の加算
- (※道路標識等によって歩行者横断禁止と表示されている場所)
- 歩行者が直立前後の横断や佇立、後退をした場合、10%程度の加算
- 住宅街や商店街での事故では5%程度の減算
- 歩行者が集団横断をしていた場合や、歩行者が児童や高齢者であった場合は、10%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者であれば、20%程度の減算
- 自動車側に著しい過失があった場合は、10%程度の減算
- 自動車側に重過失があった場合は、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない道路の場合は、5%程度減算
幹線道路や広路などでの事故のケース
幹線道路や広路などで衝突したケースについての過失割合はどうなっているのでしょうか。ここでの「幹線道路」とは、比較的に車の交通量が多い国道や県道などを指します。一般的に歩道が設置されている、片側二車線以上の道路を指すことが多いです。
広路とは、交差する2本の道路のうち、明らかに広い道路幅の道路を指します。判例などに基づく一般的な基準では、狭路の1.5倍から2倍以上を「明らかに広い道路」とみなし、これを広路として扱います。
狭路と広路の交差する局面では、広路を通行する車両を妨害してはいけないという「広幅員道路優先の原則」があるため、これが過失割合の算定に大きく影響します。
基本となる過失割合については、下記の2パターンが基本となります。
- a:直進車の場合:歩行者20:自動車80
- b:右左折車の場合:歩行者10:自動車90
また、次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の事故の場合は、5%程度の加算
- 横断禁止の規制ありの場合は、5~10%程度の加算
- 歩行者が直立前後の横断や佇立、後退をした場合、10%程度の加算
- 歩行者が集団横断をしていた際の事故は、5%程度の減算
- 歩行者が児童、高齢者であった場合では、5%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者であった場合は、10%程度の減算
- 自動車側に著しい過失があった場合は、10%程度の減算
- 自動車側に重過失があった場合は、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない道路での事故では、5%程度減算
車道の幅が広く交通量が多い幹線道路を歩行者が横断する場合、歩行者は通常の道路よりもしっかりと左右の安全を確認する義務があります。また、交差する道路の幅が明らかに広い場合にも、通過する車の速度は速いことが予測されるので、歩行者が左右の安全確認を怠って横断することは極めて危険な行為です。
そのため、当該シチュエーションでの過失の算定においては、歩行者の責任が大きいとみなされることになるのです。もちろん、双方の位置関係や減速の状況などによっては、歩行者側に免責、あるいはそれに近い扱いが認められることはあります。
狭路などで歩行者と自動車が衝突したケース
狭路での交通事故において、基本的な歩行者の過失割合は10%です。
優先道路を通行している場合を除いて、自動車が交通整理の行われていない交差点に入る際には、基本的にドライバーには徐行の義務があります。(道路交通法36条3項)
優先道路、あるいは交差する道路のうち、明らかに道路幅が広い道路を通行する車両を妨害してはいけない(広幅員道路優先の原則)があるためです。そのため、徐行を怠って歩行者と衝突した際は、自動車側の責任を重くみて過失割合を計算していきます。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の事故の場合、5%程度の加算
- 歩行者が直立前後の横断や佇立、後退をした場合、10%程度の加算
- 住宅街や商店街などで起きた場合、5%程度の減算
- 歩行者が集団横断を行っていた場合は5%程度の減算
- 歩行者が児童、高齢者の場合、5%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者の場合、10%程度の減算。
- 自動車側に著しい過失があった場合、10%程度の減算
- 自動車側に重過失があった場合、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない場所での事故の場合、5%程度の減算
ドライバーが徐行していなかったなどの過失による修正が多い事案ですので、過失割合の算定では自動車側の過失の程度が大きなカギを握ることになります。
優先関係が存在しない交差点で衝突したケース
交差する道路の幅が同じ程度など、優先関係が存在しないシチュエーションの交差点などで事故が発生することもあります。こういったケースにおける、自動車と歩行者衝突を想定しています。この場合、基本となる歩行者の過失割合は15%です。
この基準は、幹線道路や広路での事故の場合(歩行者20:自動車80)と、狭路での事故の場合(歩行者10:自動車90)の中間値を採用することにしたために定められたものです。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の場合は、5%程度の加算
- 横断禁止の規制ありの道路での事故では、5~10%程度の加算
- 歩行者が直立前後の横断や佇立、後退をした場合、10%程度の加算
- 住宅街や商店街などのエリアでは、5%程度の減算
- 歩行者が集団横断をした場合は、5%程度の減算
- 歩行者が児童や高齢者の場合は、5%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者であったケースでは、10%程度の減算
- 自動車に著しい過失があった場合は、10%程度の減算
- 自動車に重過失があった場合は、20%程度の減算
- 歩車道の区別のない場所であれば、5%程度の減算
住宅地や商業地などで比較的多く発生する事案ですので、基本となる過失割合をよくおさえておきましょう。道幅の大小によって算定基準が変わるため、事故の発生した現場はどのような道幅だったのかを正確に申告する必要があります。
横断歩道のない交差点以外で衝突したケース
横断歩道のない交差点以外の場所とは、信号機が無い場所、交差点ではない場所、さらには優先関係のない道路などが考えられます。このような場所において、自動車と歩行者が衝突したケースを想定しています。この場合、基本的な歩行者の過失割合は20%です。
次のような事情がある場合には、歩行者の過失割合に修正が加えられます。
※すべてのケースにあてはまるわけではありません。
- 夜間の場合は、5%程度の加算
- 幹線道路での事故の場合は、10%程度の加算
- 横断禁止の規制ありの道路では、5~10%程度の加算
- 歩行者が直立前後の横断や佇立、後退をした場合、10%程度の加算
- 住宅街や商店街での事故の場合は、5%程度の減算
- 歩行者が集団で横断していた場合は、10%程度の減算
- 歩行者が児童、高齢者であった場合は、5%程度の減算
- 歩行者が幼児や身体障害者の場合は、10%程度の減算
- 自動車側に著しい過失があった場合は、10%程度の減算
- 自動車側の重過失があった場合は、20%程度の減算
- 事故の発生した道路が歩車道の区別のない道路の場合は、5%程度の減算
横断歩道などがないケースでは自動車の一方的な過失による事故ではないことも多いため、歩行者側の過失相殺率は基本的に高めに設定されています。そのため、修正要素に該当するかどうかが算定に大きく影響する事例といえるでしょう。