同乗者の交通事故!損害賠償は誰に請求できる?
- 2019/9/27
- 2021/05/25
自分が運転していなくても、交通事故に遭遇してしまうことがあります。例えば、家族や友人の運転する車に同乗していた場合などです。
同乗者が事故で受けてしまった損害については、いったい誰に対して損害賠償を請求できるのか、あるいは逆に損害賠償を請求されたり慰謝料などを減額されたりすることはあるかなどについて、あまり知られていません。同乗者の場合は、事故のケースによって損害賠償の請求相手が変わることがあるので、いくつかのルールを知識として押さえておく必要があります。
今回はそのような同乗者の交通事故被害について、基本となる判断基準を中心に詳しく解説していきましょう。
Contents
交通事故で同乗者が損害賠償の請求ができる相手は?
交通事故で同乗者が被害に遭った場合に、誰に対して損害賠償請求できるのでしょうか。請求相手が誰になるかは、運転者の過失の有無や、法律上の不法行為責任といった要素によって変わってきます。詳しくみていきましょう。
事故の相手と運転者
交通事故で同乗者が被害に遭った場合、同乗者は基本的に事故の相手と運転、この両者に対して損害賠償請求ができます。損害賠償請求の根拠となっているのが、民法に定められている不法行為責任です。
不法行為とは、故意や過失によって生じた違法な行為によって、被害者に対して損害を発生させることをいいます。交通事故を起こすことはもちろん違法な行為です。そして、交通事故を起こしたのは「運転者」と「事故の相手」ですから、この両者の不法行為によって同乗者は被害にあったと考えます。
不法行為を起こした側には不法行為責任という賠償責任が生じます。したがって、同乗者は運転者と事故の相手の不法行為責任にもとづき、この両者に対して損害賠償請求していくことになるのです。まずは同乗者の事故被害に関しては、まずはこれを前提としておさえておきましょう。
事故の相手のみ
では事故の相手、運転者の両者に対し、損害賠償請求できない場合はあるでしょうか。実はいくつかのケースが考えられます。1つめは事故の相手のみに請求できるケース。損害賠償請求ができるかどうかは、請求先の相手に不法行為責任があるかどうかという点が重要です。
では、事故の相手が一方的に追突してきた、あるいは相手が赤信号で突っ込んできたなどという場合はどうでしょうか。こうしたケースでは、運転者には過失がありません。過失がないということは、運転者には不法行為責任が成立しないということです。したがって、この場合は、事故の相手だけに損害賠償請求ができます。
ただ、このような事例であっても、運転者の加入している任意保険会社から搭乗者傷害保険という保険金が支払われることがあります。これは損害賠償ではなく保険金からの支払いですから、損害賠償金とは別に受け取ることが可能です。
運転者のみ
では事故の相手のいない単独事故の場合はどうでしょうか。このケースではそもそも事故の相手はいませんから、相乗者が被害に遭ったのであれば、損害賠償請求できるのは運転者に対してのみです。
また、相手方のいる事故であっても、運転者に対してだけ請求できることがあります。例えば、運転者の一方的なミスで追突した、あるいは信号無視によって衝突した、というケースです。このような場合は事故の相手に過失が見られないので、事故の相手に対しては損害賠償請求できません。
損害賠償の請求先が運転者のみとなる場合の単独事故では、後述する好意同乗による減額があるか、という点が問題となります。相手方のいる事故では、運転者側と相手側の過失の有無によって、請求先や請求額が変わってくるということを押さえておきましょう。
交通事故で同乗者が損害賠償を減額または請求されるケース
交通事故の発生状況によっては、同乗者からの損害賠償請求額が減額された、あるいは逆に請求をされるといったケースもあります。いったいどういう時に、被害を受けた同乗者側が不利になるかについて、ここでは説明していきましょう。
運転者が飲酒運転や無免許であることを知っていた
同乗者が不利になるのはどんなケースがあるでしょうか。それは同乗者が運転者の不法行為に直接的、間接的に加担しているとみなされる時です。例えば、運転者が飲酒運転や無免許の状態で運転していることを知ったうえで、同乗していたという場合を考えてみましょう。こういったケースでは、同乗者はこのような不法行為を阻止する義務を負っています。
それにもかかわらず、運転者を止めることなく事故が発生してしまった場合、同乗者に共同不法行為責任が生じてしまいます。つまり、同乗者自身にも賠償責任が発生するのです。
同乗者にも賠償責任のある場合であっても、事故によって受けた被害に対して、同乗者は損害賠償請求することは可能です。ただし、同乗者にも過失があるとみなされるので、飲酒運転事故では20~25%、無免許運転では20%ほどが請求額から減額されることになります。
特に無免許事故は注意が必要で、単に運転者が免許を持っていないだけでなく、免停期間中や免許の有効期限切れ状態にあった場合も無免許に該当するので、気をつけたいところです。
危険運転を止めなかったり煽ったりした
運転者の危険な運転を止めなかった場合も同乗者の責任が問われます。例えば、運転手が速度オーバーで運転をしていた、あるいは蛇行運転や信号無視などの危険運転をしているにも関わらず、注意せずに容認していたといったケースです。この様な状態で事故が起こってしまうと、運転者と同乗者にはともに共同不法行為責任が発生します。したがって、事故の状況によっては同乗者に対しては相手側から損害賠償請求だけでなく、刑事責任を問われることも考えられるのです。
また、危険な運転を止めなかったり煽ったりした結果として事故が起きたのであれば、同乗者側から請求できる損害賠償金額は大幅に減額されることがあります。同乗者の責任が重いと判断されると、多い時では請求額の20~30%程度も減額された事例もあるようです。
同乗者の賠償が減額される好意同乗減額とは
同乗者に目立った過失がなくても、損害賠償金を減額される場合があります。いわゆる好意同乗のケースです。では好意同乗とはいったいどのような事例なのか、そして、具体的にどれくらい減額される可能性があるかについて、説明していきましょう。
好意同乗は運転者の好意により無償で同乗すること
好意同乗とは、運転者の好意で車に乗せてもらった状態のこと。例えば、友人が目的地まで乗せてくれた、出かけた先で友人や知り合いが車で送迎してくれた、といった場合です。
なぜこれが問題になるかというと、同乗者は運転者の行為で乗せてもらったという利益があるのだから、事故が起こったからと言って一方的に賠償請求するのは不公平ではないか、という考えがあるからです。こうした同乗者の得た利益を考慮した事例では、同乗者側からの損害賠償請求額を減額することがあります。
法律的には好意同乗による損害賠償金の減額は、請求者側にも過失があった時に賠償額を減額する「過失相殺」という規定を類推適用して減額します。減額する割合は損害賠償額の20~50%ほどと、かなり高めの設定です。
好意同乗減額が行われるケース
ただし、最新の判例では単なる好意同乗のみで減額されることは少なくなってきています。かつて車そのものが希少で高価だった時代には、好意同乗という理由だけで損害賠償を減額することが多かったのですが、それは昭和50年代までのこと。
それ以降は車も比較的安価となって普及しているので、同乗するだけで大きな利益を受けたと判断されにくくなっています。また、友人や知人、家族が運転する車に同乗しているからといって、それだけで必ずしも好意同乗による減額対象とはなりません。
したがって、好意同乗による減額が行われるケースとしては、同乗者が危険行為をして交通事故の原因を作り出してしまったケースに限られるといえるでしょう。
同乗者の危険行為にあたるケースとは、運転者に対して運転中に暴力をする、危険な運転を煽る、飲酒運転を承知で同乗する、といった行為のことを指します。このような事例では、同乗者にも不法行為責任が認められるため、損害賠償なども減額されることになります。
同乗者の交通事故の判例
実際の交通事故で、同乗者の不法行為責任が争点となった重要な判例がいくつかあります。そのなかで、代表的なものを2例ほど紹介していきます。同乗者の損害賠償額が減額された判例と、同乗者の不法行為責任を認めた判例の2つです。
同乗者の損害賠償が減額されたケース
大阪地方裁判所による平成19年の判例のケースです。事故は原告が、従妹Bの運転する自動車に同乗しましたが、この車が対向車線をはみ出して、被告Cの運転する自動車と衝突してしまいました。同乗者Aが負傷したことから、Aは運転者Bと相手側のCを相手に損害賠償を求めた、という事例です。
ポイントは運転者Bが無免許のうえ、飲酒で酩酊状態だったこと、そしてそのことを原告Aはどこまで知っていたかという事でした。事故自体はBの一方的な過失であると判断されたため、Cには過失なしとされ、Aへの損害賠償義務もなし、とされています。問題はBへの請求です。AはBの無免許状態は知らなかったものの、Bの酩酊状態による運転を止めることなく好意同乗していました。この事実から、裁判所が「Aは極めて危険な交通事故の発生を予見できたはずである」と判断したため、同乗者Aも不法行為責任を一部負うとされたのです。その結果、損害賠償金額は、慰謝料500万円を含む557万3520円から25%減額されて、418万3515円となっています。
同乗者にも責任があるとされたケース
もう一つの事例は同乗者に共同不法行為責任ありと判断した、最高裁平成20年7月4日判決の事案です。中学時代の先輩、後輩の関係にあったAとB、この2人がバイクに2人乗りをして仲間とともに暴走行為をしていたところ、Aが運転、Bが同乗している際に事故を起こして、同乗していたBが死亡した、というケースです。
最高裁は、このAとBが事故当日、運転を交互に交代しながら暴走行為を繰り返していたことに着目しました。事故時点では運転者はAでしたが、それまではBも共同で運転していたので、これを単独行為とみなさず、AとBによる共同不法行為による事故である、と判断したのです。その結果、Aの過失もBの過失であると判断されました。同乗者がいた場合でも単独事故と同じようなケースとなった一例です。
同乗者として事故に遭ったら適切な交渉ができる弁護士に相談を!
同乗者として交通事故に遭ってしまった場合は、事故の状況によっては同乗者にも過失ありと判断されると、損害賠償の減額や、逆に不法行為責任を問われて請求をされてしまうケースもある、ということを知っておきましょう。また、好意同乗のケースでは、良く知った人に同乗させてもらっていたという事情も多いため、関係性の悪化を恐れて適切な損害賠償を請求しにくいケースもあります。したがって、同乗者の事故においては、第三者という立場で適切な交渉ができる、交通事故に強い弁護士に依頼することが大切です。自分の不利益を避けるためにも、きちんと専門家の力を借りる方が得策といえるでしょう。